さいかち 真のアーカイブ

鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ怒濤の海を 飛びゆく鳥のように

 丘を越え谷をわたりてしろがねの薄波寄る島をしぬばむ

白髪薄夕日に燃ゆる荘厳を息つめてみつつすべもあらめや

わが部屋の前の木のみが芽吹かない 私が影でごめんなさいね

この日ごろ遊歩道には氷とも泥ともつかぬものの落ちをり

こがらしのあとの朝晴間もなくて軒うすぐらみ時雨降るなり

航跡が消えずにのこる夢を見た びるけなう、びるけなう 遥かなり

小雪に凍みた茶褐色の風景があり、うしろ影をみせて行くわが子を見た

思慕清く胸こみあげて複製のちいさき絵にもしばし救はる

窓もたぬ夜の壁面に影うつる冬木のいちやう枝しげくあり

あたらしき羽織の紐のともすれば空解けすなり初冬の夜は

かへりみてあやまちなしと誰が言はむ人と物との歪みしげき世に

うたかたの職場におのれ尽くし来ぬ指のあはひを風の抜けゆく

慰安婦のほとなる深き井戸の底ぬばたまの天黙し在りしを

うつぶせになれば怒りも伏せられるのかうつぶせになってみよ

肌しろき不良に煙草を投げられし地下道の闇が夜へとつづく

干すまでは洗濯たのし取り入れてたたみてしまふときにひとりぞ

とほくにて戦報をいふラヂオありしづかにもえて音なきもみぢ

あしびきの山のはたけに刈りのこす粟の素茎を見てすぎにけり

貧しさは人のこころを毀つとぞ壊れし子らの教室に吼ゆ

冷や飯を湯漬けにさらっと立ち食いす午後は氷雨になるやもしれず

一太郎は少数派なりそれでいいさうしていつも片隅にゐる

公園のふん水に立つ尺のにじわがよろこびもそれほどの事

公園にベンチのあればゆるゆると吾より先に影がちかづく

放物線を描いて谷に落ちゆくは鳥?否、礫?否、ひとつやくそく

夕刊を読みをはりしが妙高に雪降りつみし記事も親しも

地湧の菩薩として僧俗和合で〔魔の所為〕を砕滅する

秋のおもひ堪へえぬ時は朽縁に出でて狭庭の石にもの言ふ

火ぶくれのごとき紅葉をあらしめて秀つ枝を去りしひとむらの霧

海岸山観音寺の朝ぼらけ空々くろろんと啼くは誰が子ぞ

1 / 612345...最後 »

月別アーカイブ


著者別アーカイブ