魚村 晋太郎のアーカイブ

人生のもつともつらい瞬間は過ぎたのだらう 内装は蒼(あを)

一二月二十八日午後二時のひかりのなかに二つの林檎

二千年          前、に生まれた嬰児の(さう!)血の色のリボン、を、結ぶ

地下のバー酔ひやすくして己が手に残る時間を人ら埋(う)もるる

まだ乾かない水彩の絵のやうに雪くる朝の雲がにじんで

寒波来て眠りの早き街遠く暴走族よごくらうである

メールでは加藤あい似のはずだった少女と寒さを分かつ夕暮れ

みんな仕返しが大好き極月の戯(そばえ)きらきらこうずけのすけ

ガス室の仕事の合ひ間公園のスワンを見せに行つたであらう

敗れたる國といへども涙ふきゐるをとめあり映畫館にて

冬という季節がわれに大げさな息をさせたり向かい合うとき

さやうならとは永久(とは)に人語よわれは人間(ひと)青天に愁ひなきこゑをききとむ

冬の欅勝利のごとく立ちていむ酔いて歌いてわが去りしのち

耄(おいほ)けてぬくもりがたき床ぬちに入るるを思へはだか童女(わらはめ)

冬池に眠る白鳥の華やぎに似し白菜を厨に殺(あや)む

はつ霜のとけて光れる畑土のへだたれば永久にやさしき父よ

ふたつつめたく掌ありて白樺の幹に冬陽を確かめている

垂直の街に来る朝われらみな誰かうまれむまへの日を生く

冬は冬の枝かたちよき玉蘭(はくれん)につくづくとゐる一つひよどり

手のひらに豆腐ゆれゐるうす明かり 漂ふ民は吾かもしれず

自らにつぶやくように小(ち)さくなりしかれども炎(ほ)はおさまりみせぬ

子は天与の者にてあるか秋の陽は贋金(にせがね)のごと黄菊を照らす

苦しみの実りのごとき柿ありて切なしわれの届かぬ高さ

雨蛙刺されしのちの脚いたく長しと思ひぬ冬庭の鉢

木枯の生まれた海にゆくまでは文字はやさしい鍵だったのに

いびつなる青きくわりんを黄にかふるおほいなる手よ悲しみの手よ

忘れるといふ美徳もあるをまつかなる木々らだまつてしぐれてゐたり

刃を当てて剥きしなま栗円空のほとけの顔に似つつひそまる

目のまへのちひさな駅がなくなると知つてみている白いコスモス

漏斗(じょうご)のやうな月のひかりの底(そこひ)なる息子の部屋に息子はをらず

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