光森裕樹のアーカイブ

陽炎に裏表ある確信を持ちてしずかに板の間に伏す

炎昼の往還に人絶えぬればあらはるる平沼銃砲火薬店

幼年時代の記憶をたどれば野の果てで幾度も同じ葬列に会う

七月十七日かなかな鳴けり幾度か短く鳴けり夜のベランダに

モナリザは笑みてをらずと夢に来し誰かは言へり雨月ふかき夜

「蠅はみんな同じ夢を見る」といふ静けき真昼 ひとを待ちをり

橋なかば傘めぐらせば川下に同じ橋あり人と馬行く

さびしさに死ぬことなくて春の夜のぶらんこを漕ぐおとなの軀

いつか死ぬ点で気が合う二人なりバームクウヘン持って山へ行く

卓のグラスに映れるわれら人生のこの一齣も劇的ならず

このビルの完成予定のきょうまでになんか変わっているはずだった

違う世にあらば覇王となるはずの彼と僕とが観覧車にゐる

銀行に銀の冷房臭みちて他人(ひと)の記憶のなかを生きをり

下じきをくにゃりくにゃりと鳴らしつつ前世の記憶よみがえる夜

はい、あたし生まれ変わったら君になりたいくらいに君が好きです。

予定日は桜桃忌にて霧深しわが子の晩年をなつかしむ

人間の生まれる前は人間の生まれる確率0だつた星

鋪装厚き道にて人は行き交へり豊かに生まれうまれ継ぎつつ

死んだつてひとりぼつちだ生きたつてひとりぼつちだ世界は馬鹿だ

ぼくは流す
やさしいオンガク空のほう
人生のリセットボタンをおすとき

髪の毛をしきりにいじり空を見る 生まれたらもう傷ついていた

(しはぶき)不意に出る心地してああぼくは一千年を生きねばならぬ

6月の2日の朝に夏が来てあなたに会うので夏バテしそう

ヴェランダは散らかっていて六月の台風がもうじきやってくる

すずやかな空の青さで顔を洗う心地のあした七月となる

波とほく寄する耳鳴り 八月の雲が厚みを増してゆくとき

天からのサインが風に溶けてゐて諦めよといふ九月の朝に

十月の孟宗竹よそうですか空はそんなに冷えていますか

水薬の表面張力ゆれやまず空に電線鳴る十一月

灰色の空見上げればゆらゆらと死んだ眼に似た十二月の雪

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