今井恵子のアーカイブ

息子とは見るものが違い朝雲のバックミラーを俺は動かす

わらべペダルの上に身を立ててこのつゆばれの夕べをきたる

寒あおぞらかぎるもの見ずたかひかる米軍制空権のとうめい

チャーハンの写真を撮つてチャーハンを過去にしてからなよなよと食ふ

人齢をはるかに超える樹下に来て仰ぐなり噫、とてもかなはぬ

みづからの雨のしたたりにあぢさゐの花は揺るるにおのおのにして

身はたとへ武蔵の野べに朽つるともとゞめ置かまし日本魂やまとだましひ

塹壕に最後までありて死行きし娘子軍ぢやうしぐんの死体まだ暖かに

ゆるきゃらの群るるをみれば暗き世の百鬼夜行のあはれ滲める

ほととぎす霧這ひ歩く大空のつづきの廊の冷たきに聞く

手をたれて(いま手をたれて病むひとの手の数に慄然と)われあり

垂直に振子ぞ垂れて動かざる時計ひとつありわが枕がみ

なにげなく摑んだ指に冷たくて手すりを夏の骨と思えり

空の奥へ空が続いてゆく深さ父となる日の土管に座る

親馬に添ひて野を来る仔馬見ゆ親はかなしきものにかもあらむ

亡き人を語りて書きてそののちにもつと本当のことを思ひ出す

片耳をそっとはなした電話から鎖のように声はこぼれる

吉野にはあの世この世を縫ひあはす針目のやうな蝶の道あり

なかぞらのすきまに見えて赤き實の三つ野鳥ののみどへ行けり

自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず

わが脚が一本草むらに千切れてゐるなど嫌だと思ひつつ線路を歩く

すべからく落つるべき子が落ちしかな大田区池上むかしの肥溜め

呼ぶ声の水にひびかひ草むらにもう一人ゐて少年のこゑ

白つつじゆたかに昼の日は射して蝶、蝶を追ひ人、人と行く

そうですか 怒鳴り続ける声があり頷きながら思う白鷺

戦争を知らぬ世代が老いてゆく不安なタンポポ空ばかり見て

寂しさの根源として縁側の日なたに出でて正座する人

老いさびし犬の散歩に小太りの猫の薄目や 法案通る

つけ捨てし野火の烟のあかあかと見えゆく頃ぞ山は悲しき

衰ふるわが眼のために咲きそむるミモザの黄なる大き花房

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