今井恵子のアーカイブ

葦の間に光る水見ゆをさなくてかなしきときも川へくだりき

アダムの肌白人はしき白といひエチオピアの子は褐色といふ

かなしみはひとふりのむちせかれつつ歩むわが背に響く風音

たどりつく浜の薊に羽根ひらきあさぎまだらは全身さらす

セイロンの紅茶淹れつつ思ふかなこの葉を摘みし人の指先

寒雀このあかつきのさへづりにおもてただしてわれはありたき

午後の陽は卓の向かうに移りきて人の不在をかがやかせたり

発音で出自が知れるイギリスの階級社会を強く憎めり

やさしさはこころのはじめ水こえて来たる子の眼のなかの冬蝶

カナリヤの囀り高し鳥彼れも人わが如く晴を喜ぶ

枝を過ぎ葉に触れはにふれそしてみなわが眼のなかへ雨おちてくる

みづからを家の深くに進めゆく音せりよるの老い母の杖

ペンギンに踏まれる感触の夢さめて満ちくるごとく身に力あり

鍋の火を消してふりむく裏口の暗さの向こう燃えている空

マンションより月夜に箱を運び出す男に淡き尻尾がありぬ

淡雪にいたくしづもるわが家近く御所といふふかきふかき闇あり

等伯の松林図けふ観にゆかむ朝のとこにきたる雨音

動かねばおのづからなる濃き影の落ちてをるなり池の鮒の影

独楽は今軸かたむけてまはりをり逆らひてこそ父であること

地の上は暮れゆくばかり振りむけば出で来し穴に光の増しぬ

ひなたより入り来し赤いセーターの少女つかのま陽のにおいせり

いや赤き火鉢の火かもふつふつにもゆる怒りを抑へつつ見る

初詣帰りの道に野の草のハーブ引き抜き妻は手に持つ      

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