Archive for the '今日の一首鑑賞' category

翅ひろげ飛び立つ前の姿なす悲という文字のアシンメトリー

もやもやとだまされてゐる春日暮れ二円切手のうさぎ愛[め]ごくて

子をいつか困らせぬようアルバムは燃えざるリングのつかぬを選(よ)らん

憶えたことすべてわすれて想像でうろつくかもねいつか上海

しづかなるたたかひさながら春の雪吸はるるごとく木立に降りこむ

むかしむかしの小川が流れてゐるやうだ芹食べてあかるく澄んでゆく咽

うごく手は罰せられたりははの手を安全帯なる布が縛れり

髪の毛をしきりにいじり空を見る 生まれたらもう傷ついていた

この家に女(をみな)をらねば鏡という鏡くもれり秋ふかむ中

風の午後『完全自殺マニュアル』の延滞者ふと返却に来る

金箔の厨子閉ざす夜のはるかより雪しづくする音のきこゆる

わがピアノ薔薇のフェンスを越えゆけば苦しき日日は虚空に溶くる

思うことなきときに酌みありて酌む遠き肥前の「六十餘州」

五月来る硝子のかなた森閑と嬰児みなころされたるみどり

離陸する別れのつよさを繰り返し見てをり秋の空港に来て

ひとひらの雲が塔からはなれゆき世界がばらば らになり始む

折り畳み傘で造りの強い傘拡げて差して吹雪く道を行く

犀星は詩のなかにのみふるさとの輝きてをりとほくやさしく

まはだかのことばひりひりはきはきと「二度ととうさんとはあそばない」

緑道を黙って歩く父だった四月の霧をほおひげに受け

なきひとに会いにゆく旅ナトリウムランプのあかりちぎれちぎれて

あくる朝十八になる玄関の金魚はふっと縦に立ちたり

おもふさま隣の境越えて散る椿のあかき花おびただし

ないですって言っているのに渡されて脇にはさんで鳴るのを待った

航跡をのこしつつヨット進む見え若年の未来はた還らざる過去

五年もつダイアリー最早あがなはず来年は大学ノートで済ます

聞きながら胸痛くなるおさなごの泣き声弱まりくればなおさら

前髪を5ミリ切るときやわらかなまぶたを鋏の先に感じる

体重をかけながら刃を圧してゆく受け入れられて息の漏れたり

廃仏となりてふげんは十余年いまだ御身に冥王を抱き

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