Archive for the '今日の一首鑑賞' category

はろばろと天心をゆく月見れば月と教へしは父よと思ふ

いぢめられいぢめられてもついてくる榎本君がおそろしくなる

ブラウスの水玉模様歪むなり老父を残して帰路を急げば

花崗岩の花ひらく巓をとりかこみ五峰・天女・勢至・無涯峰とうちよせる天上の奏楽

とりあへず「括弧」でくくりかなしみの方程式は解かずに置かう

わたくしが<私>を検索するといふ遊びの果てに襲ひ来るもの

本棚をずらせばそこに秋風のベーカー街へ續く抜け道

風吹かぬ山かげに来ればあたたかし月照りみちて虫の音多し

園児らの障害物競争を見つつゐてかかる時涙とどまりあへず 

過ぎてゆく一日一日をまた秋の光となりて茶の花咲けり

生きて在らば二百歳になるショパン心臓のみが祖国に眠る 

白波のはたてかすめる志賀島再び人を恋いて来ぬれば

ヨカナーンの首もなければ古伊萬里の皿はしづかに秋風を盛る 

後の世を生くるあはれさ子供らの歓声秋の空に澄みたり

海よりもすこし薄めの塩水に身は満たされて一滴の海

昂りを鎮めんとして噴き上ぐる思いのあれば生きているなり

ゆびあはせ小窓つくれば三角のあはひをよぎるあの夏の雲 

吾が妻の笑まひは清し傍にみどり児はまだうぶ毛ぬれたり

ゆつくりと二人でのぼる長谷寺の石段一つひとつ大切  

ばあちゃん家いきたくならない? 冬に窓あけてソーセージゆでてたら

取るの字は耳を取るの意 月光のしじまの中に耳取られたり 

沖あひの浮きのごとくに見えかくれしてゐるこころといふけだものは

ねえ武器をすべて捨てたらどうかしら足の踏み場がなくなる前に 

つくづくとゆめにしあへればふかどより少年魂のいたみふきあぐる

日が差せば石はぱつくりと口ひらき太古の空の色を語れる

草の実も木の実も浄き糧ならず鳥よ瞋りて空に交差せよ

いまもなほ左脚を軸に立ちあがる突撃に移るときのごとくに  

百日紅のひかりのはだら地にゆれて忘れてゐたる約束ひとつ

赤ちゃんの産着を着せてゆくように新刊本をフィルムで包む

わが恋に汁椀ほどのみづあかりあれば朝夕机辺にひかる

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