Archive for the '今日の一首鑑賞' category

ねこじやらし穂のふはふはを手握(たにぎ)ればぬくし秋陽を溜めたる穂先

群雀ねぐらあらそふ竹村のおくまであかく夕日さすなり

四ツ橋筋に欄間屋ありてうつくしき欄間の彫りにひびく街音

よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ

朝くらき花屋の土間に包まれて仮死せるごとき白百合の束

もの言へば 泣けくるものを。通夜ふけて、親しき友の また一人着く

馬鹿げたる考へがぐんぐん大きくなりキャベツなどが大きくなりゆくに似る

いまははた 老いかゞまりて、誰よりもかれよりも 低き しはぶきをする

一口のパンが喉(のみど)を通った日私は真紅の薔薇になった

秋を待たで枯れゆく島の青草は、皇国の春によみがへらなむ

窓ちかく朝顔の苗うゑてまつ病みてゆけざる海のいろの花

兵営に消燈喇叭の鳴るときし南十字はかたむきにけり

ゆつくりと朝の机を拭き終へて場所が居場所に変はれる不思議

離りゐて 思ふはすべなし。常世子は 雛祭に 仕へつらむか

ブルーシートの青は食欲失くす色 三年を褪せることのなき色

処女らに何護らすとわが教ふ手榴弾に火をつけ爆ぜしむる術

両の手を垂れて液体のごとき吾か夜半に明るき小園にをり

建つるなら不忠魂碑を百あまりくれなゐの朴ひらく峠に

子の夢に見られゐるわれ夕闇に螢ぶくろを提げてあゆめば

燕飛ぶ空を仰ぎて立ち尽くすわれ兵たりき人を殺しき

ひとりゐて魚焼きをれば魚の眼の爆ぜてこぼれぬしづかなる日よ

天皇を泣きて走れる夜の道の草いきれこそ顕ちくるものを

戦ひに敗れてここに日をへたりはじめて大き欠伸をなしぬ

明日という日もなき命いだきつつ文よむ心つくることなし

抑留に働きし炭鉱のブカチャチャ炭弟が輸入せるとふ奇跡

夜をこめて板戸をたたくは風ばかりおどろかしてよ吾子のかへると

八月のまひる音なき刻(とき)ありて瀑布のごとくかがやく階段

六十年むかし八月九日の時計の針はとどまりき いま

人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら

よるべなく なほ南溟の空をとぶ。ああ戦友別盃の歌

月別アーカイブ


著者別アーカイブ