Archive for the '今日の一首鑑賞' category

君がためつくす心は水の泡消えにし後ぞすみ渡るべき

十六歳の君の写真が見下ろすは柩に眠る十八歳の君

いまよりはなるにまかせて行末の春をかぞへよ人の心に

常通る汽車の火の粉に焼けたりし露草の花曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花

すくすくと生ひたつ麦に腹すりて燕飛びくる春の山はた

過去形を使った文を作らせて母の亡きこといまさらに知る

朴の木の芽吹きのしたにかそかなる息するわれは春の山びと

大川にあと白浪の春立ちて名探偵もねぶたかりけり

霞立つながき春日に子供らと手毬つきつつこの日暮らしつ

人去りし公衆便所の白きドア 開きたるまま日の暮れてゆく

あかげらの叩く音するあさまだき音たえてさびしうつりしならむ

空高く手を 人体はみづからの腋下に口をつけえぬかたち

みほとけ の うつらまなこ に いにしへ の やまとくにばら かすみて ある らし

何ひとつたくはへ持たぬ鳥の群身ひとつにて北へ飛び立つ

くわんおん の しろき ひたひ に やうらく の かげ うごかして かぜ わたる みゆ

ブロッコリーの花を咲かせて生けている米寿の母のふしぎひろがる

ゆく春や とおく〈百済〉をみにきしとたれかはかなきはがききている

散髪を終へたる頭持ち歩き何かひらめく寸前にあり

草原を駈けくるきみの胸が揺れただそれのみの思慕かもしれぬ

かげろうの卵にも似て街灯はわれらの帰る場所へつづけり

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ

置時計よりも静かに父がいる春のみぞれのふるゆうまぐれ

沈み果つる入日の際にあらはれぬ霞める山のなほ奥の峰

死は意外に靜かなるものとその妻に言ひのこしたり醫として生きて

深山木のその梢とも見えざりし桜は花にあらはれにけり

そうやって誰もがいなくなる夜をコップの底のように過ごした

白玉の美蕃登をもちて少女子は夜咲く花の嘆きするらむ

わが顔に夜空の星のごときもの老人斑を悲しまず見よ

四月七日午後の日広くまぶしかりゆれゆく如しゆれ来る如し

いちまいの紙切れのごとく置かれある日影をけさの幸と見ん

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