Archive for the '今日の一首鑑賞' category

逢ひたいと思ふ、思へば昼も夜も緋の澱を手に掬ふきさらぎ

春塵をうっすらと置くポストぬぐう偽名も筆名も使わず生きて

どこでもないところへゆきたい あなたでなければならないひとと

啄める林檎の肉のたっぷりとありてひそけくながれゆく時

灯消し稚き妻が息づきぬ窓の外に満ちし冬の月光

劣情が音立つるほど冷えている。きさらぎ、デスクワークのさなか

かなしくも恋と知る日はかたみにも悔いて別るる二人なるべき

そらいろの小花にとりかこまれながら電信柱けふも芽ぶかず

脱ぎ捨てた服のかたちに疲れても俺が求めるお前にはなるな

再び若くなることあらじ昨年よりも幹太く濃く椿ひらきぬ

恨みの数つもりて老いは苦しきにいにしへびとは太鼓打ちたり

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

銜(くは)へ来し小枝はくちばしより落ちぬ改札を抜け君に笑むとき

指半分出る手袋をして会えば指半分だけが見つめられたり

甘えたき気持ち悟られまいとしてイルカのやうな明るさを見す

やや冷えしブリ大根を熱き飯(いひ)に載せてぞ食うぶ春立つあしたを

単純でいて単純でいてそばにいて単純でいてそばにいて

鬼の面はづしてみればあはあはとひかりあひつつうみに咲くはな

かかる深き空より来たる冬日ざし得がたきひとよかちえし今も

吊られあるわがオーバーの若き日の父立つに似ていきどほろしも

ゆるやかに櫂を木陰によせてゆく明日は逢えない日々のはじまり

好きなヒトと好きだったヒトが一階と二階に眠り春の雪降る

こうやって子供を好きになってゆくのだろう青に変わるまでの信号

くたびれた軍手が燃えるうつくしさ人は眠りぬ我も眠らむ

世に別れ去りたる人よ 目に見ゆる近き他界として空はあり

冬の夜の洗面台に忘れたるくれなゐの櫛おもひて眠る

冬の朝つめたき陶となる髪に従容と来てひとは唇触る

寄るべなき思ひにひらく枕絵の火鉢に赤く炭は燃えをり

なだれこむ青空、あなた、舌の根をせつなくおさえこまれるままに

たそがれてゆく樹木らもしばらくは影暖かし人のごとくに

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