Archive for the '今日の一首鑑賞' category

橋の見るゆめのようなる町並みの眩しきなかをほんやら洞へ

清らかにカンガルーポケットに指かけてああ服の下には体があるね

ハルウララ敗れることが義務であるごとく走りき泥濘の馬場

ゆきたりと知りて極まるさびしさのなか揃へある赤きはきもの

今われは樹の眼(まなこ)なり空中に伸びたる蝶の舌がちかづく

ルーベンスの薔薇色の雲わが手には君の重たき上着が眠る

いびつなる三叉路に立つ風の夜いづれの道もわたくしを呼ぶ

この夜更(よふけ)さくらさくらを歌ひなばいかなる腕にわれ抱(いだ)かれむ

かんぺきなきゅうたいとなる夢をみていきつめているたんぽぽわたげ

春の海。誰も見てないテレビから切れ切れに笑い声は響けり

らくがきの「かじ山のバカ×一〇〇〇〇〇〇〇〇〇」のかじ山を思ひ出せず

指切りのゆび切れぬまま花ぐもる空に燃えつづける飛行船

冴えわたる四月晴朗どのような顔か母であり母でなきわれは

子を守ることよりほかは道楽と思ひいたれば心安らぐ

しかたなく百年白き花を噴きこんな姿になって立っている

〈あげた愛〉〈ほしい愛〉とのバランスを計りかねてるセーの法則

さくら咲くゆふべの空のみづいろのくらくなるまで人をおもへり

カ行音躓(つまず)くあなたの吃音に交叉している山の水音

いつか僕も文字だけになる その文字のなかに川あり草濡らす川

墓石の名前をみればいまさらにこの世に在りて死にて居らざり

何回も桜並木を迂回する告白を待つ少女のように

乾いてる春をかわして行く君はさよならのときも振り返らない

仕方なく雲からこぼれて来たような雨いつかやみ春の夕暮

死がすこし怖い 妻との黄昏は無数の鳥のこゑの墓原

香りたつ栄螺の腸を巻きとりてふつと誰かを許したくなる

雑踏にまぎれ消えゆく君の背をわが早春の遠景として

鳥の重みに揺れてゐる枝 どのやうに苦しむべきかわれはわからず

君の声も混じっているように思われて春の来るたび耳を澄ませる

ブラスバンドが同じところで間違ふを二人聞きをり春の三角州(デルタ)で

きみは温とく、あるいはきみは冷やけく病みびとわれのかたへにゐたり

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