2009年03月のアーカイブ

子を守ることよりほかは道楽と思ひいたれば心安らぐ

しかたなく百年白き花を噴きこんな姿になって立っている

〈あげた愛〉〈ほしい愛〉とのバランスを計りかねてるセーの法則

さくら咲くゆふべの空のみづいろのくらくなるまで人をおもへり

カ行音躓(つまず)くあなたの吃音に交叉している山の水音

いつか僕も文字だけになる その文字のなかに川あり草濡らす川

墓石の名前をみればいまさらにこの世に在りて死にて居らざり

何回も桜並木を迂回する告白を待つ少女のように

乾いてる春をかわして行く君はさよならのときも振り返らない

仕方なく雲からこぼれて来たような雨いつかやみ春の夕暮

死がすこし怖い 妻との黄昏は無数の鳥のこゑの墓原

香りたつ栄螺の腸を巻きとりてふつと誰かを許したくなる

雑踏にまぎれ消えゆく君の背をわが早春の遠景として

鳥の重みに揺れてゐる枝 どのやうに苦しむべきかわれはわからず

君の声も混じっているように思われて春の来るたび耳を澄ませる

ブラスバンドが同じところで間違ふを二人聞きをり春の三角州(デルタ)で

きみは温とく、あるいはきみは冷やけく病みびとわれのかたへにゐたり

安心といふのはかういふものだらうひとつの花にひとつのめしべ

父といふニコチンまみれの気まぐれは童女(うなゐ)の髪を指もて梳くも

湯の中に塩振りながら ブロッコリーお前程いさぎよき緑になれたら

さびしさは父のものなり水底(みなそこ)の泥擦り上げて真鯉浮かび来

春の日を家居せりけり擦れ違ふ人なくて曇りゆくわが面(おもて)

降りみだれみぎはに氷る雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき

右半盲の母の視界の外に立ちミモザの花はあふれて咲けり

遠空に音なき雷が瞬きて人ひとり娶らんおののきを持つ

会えなくていいような気になりかけて春の枯れ葉にさし入れる足

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