2009年06月のアーカイブ

会えるとは思わなかった 夏が麻痺してゆく船の倉庫のかげで

桑の實數千(すせん)熟れつつ腐るすでにして踰(こ)ゆべき海も主(しゆ)もわれになし

無縁なるものの優しさ持ち合ひて草食む牛とわれとの日昏れ

熱湯に月桃花茶のティーバッグふかく沈めてこの世にひとり

愛を告げすぎて不安になるこころあまたなるゆすらうめの実のゆれ

手の触れる範囲に誰かきつとゐるガマの闇からひそひそと声

ともにゐてかなしいときにかなしいと言はせて呉れるひとはゐますか

もっともっとさみしくなるとガラス窓にあじさいは頭を押しつけてくる

君こそ淋しがらんか ひまわりのずばぬけて明るいあのさびしさに

汗香る髪はいつしか雨となる雨のむかうに灯る紫陽花

いちまいの皮膚にほかならない皮膚を引き裂くほどに愛してもみた

もうどんな約束もなし身ひとつを運びきたりて菖蒲にかがむ

わが生まむ女童はまばたきひとつせず薔薇見れば薔薇のその花の上に

右足から蔓を伸ばして右耳に凌霄花の花咲かせたし

ひるがほは火傷のやうにひらき出づこの叢(くさむら)にあなたは笑ふ

日照雨過ぎムーアの丘に虹立てり大洪水後いく度目の虹

立ち上がりわが手に縋る柔らかき母がてのひら息子を忘る

吃水の深さを嘆くまはだかのノア思いつつ渋谷を行けば

われよりも平熱低きことを知る眠れる首にそっと触れれば

足もとに寄り来る鳩はにんげんがにんげんを殺すことを知らざり

ゆふがほのひかり一滴露けくて永遠(とは)にわれより若き恋人

六月の折鶴かなし八人の子供に長き死後とふ時間

インフルエンザの子供は熱し 林檎摺り極々小の星出づるべし

次の夏いっしょに行きたかった場所 あした言おうとしてたひとこと

手をつなぐかと問ふわれに君はただ笑みて水筒の紐を直しぬ

夕映えはあわぁいあわいびわの色いまでは思い出せない味の

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