2009年09月のアーカイブ

時間がない ように咲きいる曼珠沙華母の庭には母しかおらず

はまゆふのそよがぬ闇に汝を抱き盗人のごと汗ばみにけり

人恋うてつつましすぎる若さなど杳(とほ)く眠らせ秋の水くむ

膝がしら並べていたねゆるしあう術もないまま蝶を飛ばせて

金木犀 母こそとはの娼婦なるその脚まひるたらひに浸し

いつの世か会ふといへども顔も見ず訣れしゆゑに吾子とわからじ

房に入り我れの虜のこおろぎよ澄みたる音色さむざむとして

あなたとふ存在を愛で秋の陽の黄金(くがね)をも賞で陸(くが)澄み渡る

体臭のなき男かなと思いしが夢にはかなくよみがえりたり

輪郭があいまいとなりあぶら身の溶けゆくものを女(をみな)とぞいふ

男根はさびしき魚と思ふとき障子に白き夜半の月かげ

ここにただ仰ぎてゐたり青空を剥がれつづける場所の記憶を

越えなくていい壁もあり沿ひながら行けばかすかに木犀匂ふ

もうずっとそこにあるような雰囲気で子の顔の真中に置かれしめがね

アボカドの種子に立てる刃 待つといふ時間はひとを透き通らせる

「好きだつた」と聞きし小説を夜半に読むひとつまなざしをわが内に置き

吾の生を矛盾だらけとあげつらひ秋刀魚食ひたり二匹食ひたり

吾の生を矛盾だらけとあげつらひ秋刀魚食ひたり二匹食ひたり

横抱きにしてベッドまで運ぶ母野菜に近き軽さなりけり

口紅と座薬とジャムと練りからし冷ゆる冷蔵庫夏過ぎてより

トンネルをいくつも抜けて会いにゆく何度も生まれ直して私は

時の骨むさぼるごとく生き来しと告げなば溶けむ夜天の月も

雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さず裸足で来やがって

〈青とはなにか〉この問のため失ひし半身と思ふ空の深みに

言い訳はしないましてやきみのせいにしないわたしが行く場所のこと

生むことは来るべき死を与うこと秋の陽に蟻が運ぶなきがら

すがすがとすこしさびしく今日は白露 母の伸びたる白髪切るらむ

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