2009年10月のアーカイブ

抱きあへる感触のみをのこしつつ夢のなぎさのレアリテあはれ

忘れるといふ美徳もあるをまつかなる木々らだまつてしぐれてゐたり

告げざりし心愛(お)しめば一枚の画布(トワール)白きままにて残す

刃を当てて剥きしなま栗円空のほとけの顔に似つつひそまる

海を見るような眼をわれに向け語れる言葉なべて詩となる

目のまへのちひさな駅がなくなると知つてみている白いコスモス

黒闇(こくあん)の垂れそめにけるおもざしを嘆かひにけり父なるものは

漏斗(じょうご)のやうな月のひかりの底(そこひ)なる息子の部屋に息子はをらず

秋空は高かりき青かりき広かりき昔昔のさらなる昔

たけだけしき酢葉に種子の実りたりアメリカ種らしきがただにうとましく

戦(たたかひ)にゆきてかへらぬ人思へばわが身にこもり濃(こ)き秋のはな

水に乗る黄葉の影よろこびは遠まはりして膝へ寄り来つ

蒼穹の深さに澄めるみづうみよ仰ぎし人をわれは失ふ

吾(あ)を生みしもの地にありと思へども二階にのぼり月にちかづく

子と入らん未来のあをさ月光(つきかげ)に乳(ち)の匂ひあるブラウスを干す

毒のない方を選んでくださいとりんごの赤と黄が並べらる

真剣に聞くとき自分をぼくという君の背筋のあたたかい月

さびしくてわが眼に蜻蛉(とんぼ)の尾がこぼす水の環はどこまでもひろがる

きみとわが頒かつこころのきれぎれをさびしく微笑(えみ)ている窓がある

遠回りしつつ力をやしなひし台風の目の座りはじめつ

君が火を打てばいちめん火の海となるのであらう枯野だ俺は

落ち葉して秋の木は立つ 革(あらた)むることに苦しむ人界のそと

火照る肉と痛みの腸(わた)を脱ぐがよし姉よ花野へ発つ時刻なる

風呂の湯は素数に設定されていて私は1℃上げてから出る

いさかひの声よりさびし弟と姉の口笛とほくに揃ふ

月光の素足に触れてきみは地に繭は樹上に浮かべりわづか

君よたとへば千年先の約束のやうに積乱雲が美しい

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