2010年03月のアーカイブ

霧のごときあはき思ひが湧きやまぬ良いのだらうか思慕と呼んでも

わたなかを照らせる月を見てをればわが現身のあかるむごとし

人と見し夜の桜に仄かなる色ありしことまた夢に顕つ

銀紙ごとチョコレート割るそのときに引き攣るやうな痛みを持てり

大川を流れる水のゆくすえを都市遊民の夢のあわれを

忙(せは)しからむ日のはじまりはことさらにゆつくりあゆむ重心下げて

つばなの野あまりあかるく光るゆゑこの世の伴侶はだれにてもよし

ともかくも家の明かりを全部消す今日のつじつま合はなくてよし

どうやったら金持ちになれるのだろう朝焼けが空を知らない色にしている

Welcome to JFK と死者の名の大き文字見ゆ機窓より見ゆ

青雲の恋のつづきと思うべく肩にかかげる男児(おのこ)の一軀

そしてまた歳月が過ぎここはもう廃墟ですらないかすかな起伏

〈いちめんのなのはな〉といふ他なきを悔しみ菜の花の中にゐる

葡萄色の/古き手帳にのこりたる/かの会合の時と処かな

一枚の葉書をかいてポストまで 大きな春があとついて来る

「住民票一通三百円です」ともう千回は言つてるだらう

十四日お昼すぎより歌をよみにわたくし内へおいでくだされ

砂に寝て聴いてをります波とわれ息が合ふつてかういふことか

野獣派のマチスの「ダンス」手を繋ぐときあらはれる人間の檻

蜂の屍のかろく乾ける浄らにて落花のほども媚びることなし

子の描きしクレヨンの線ひきのばし巻き取り母のひと日は終はる

戦争をなくす呪文を口々に唱えて人のつらなりが進む

娘と妻はいさかいながらもどり来ぬ洋服購いて春の街より

咲く花は五分こそよけれ身のうちに残れる五分の力ににほふ

「なにもなにも小さきものはみなうつくし」日向(ひなた)で読めば桃の花ちる

しづもれる杜が見えつつゆつくりと樹木のなかを過ぎゆく時間

ぐあんぐあんと庭のバケツが笑う日はふとんをかぶって寝ることにする

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