2010年09月のアーカイブ

発言は波立つような反感をみちびきたれど反論はなし

我が手相見つつおどろき言わざりし人は何見しはやばや逝きし

北の壁に一枚の肖像かけており彼の血をみな頒かちつつ老ゆ

日だまりの石ころのやうにしみじみと外勤の午後のバスを待つ

ああさうだこの声だつたと思ふためそのためだけに君と会話す

ひとみ冴えてわれ銀河へと流れこむ両手(りやうて)をひろげてひとりは重し

「あれ、まさか」前の背に浮くおとろえに粛然として焼香に並む

秋風(しうふう)に思ひ屈することあれど天(あめ)なるや若き麒麟の面(つら)

寂しさに海を覗けばあはれあはれ章魚(たこ)逃げてゆく真昼の光

曖昧なることばに輕く手をあげて昭和天皇いづくにゆきしや

喫茶より夏を見やれば木の札は「準備中」とふ面をむけをり

うつぶせに眠る娘の背に落ちて月のひかりはまだ新しい

父を支へて歩めば老人のにほひせり不機嫌に垂るる時間の匂ひ

ポケットに電球を入れ街にゆく寸分違はぬものを買ふため

夜半すぎてこころのしまりくるときのこの真顔(まがほ)ひとりわれのみぞ知る

名殘(なごり)とはかくのごときか鹽からき魚の眼玉をねぶり居りける

ことばもて君をのぞけば月蝕のにおいのような遠いくらがり

育ちては何の記憶もなからめど時にはわれも押すベビーカー

「はえぬき」の炊きたてを食む単純な喜びはいつも私を救う

平原にぽつんぽつんとあることの泣きたいような男の乳首

初めより命と云へる悩ましきものを持たざる霧の消えゆく

話すほどねぢ曲がつてゆくさきゆきのあきらかなれど受話器を置けず

ぺらぺらと業界用語で喋りだすぼくなんだけど誰だこいつは

のんきさうに雲が通ると見てをればほとほとのんきな人とぞいはる

ああなにかとぐろを巻けるかなしみが夜の故宮にしづんでゐたり

一袋の苗を抱へて過ぐるときいつせいに木々の視線は降り来

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