2010年10月のアーカイブ

あ、ではなくああ、であろうか学校に踏み入るときの人の言葉は

座席には互いに快適に坐ろうぜ詰め合って窮屈に坐ることはない

水田に横転してゐる特急の写真を見ては和らぐこころ

秋雨は芯まで雨だ むらさきの傘しばりつつ階段おりる

ひとりゐて飯(いひ)くふわれは漬茄子(つけなす)を嚙むおとさへややさしくきこゆ

南の洋(わた)の底ひに水漬きつつ 白じろとして 面わ冴えゐる

井戸のあり腕を伸ばせば水底に冷やしおきたる我のふるさと

散りそうに襟は揺れたり風ばかり渡りゆく橋ひとり越ゆれば

山鳩はすがたの見えてわがまへに啼くなれど声はとほく聞こゆる

伜なる俺をときをり忘れをり忘れられしは涼しもたらちね

「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」

お笑いの画面を消しておもむろに笑わぬ前の顔に戻しぬ

おもらしの後は黙禱するやうに壁に向かいてうなだれる父

薄明のままに明けない日のやうに卵の殻のやはらかな白

尖塔の建てられてよりこの街の空は果てなき広さとなりぬ

見えぬものを遠くのぞみて歩むとき人の両腕しづかなるかな

曇天のくもり聳ゆる大空に柘榴を割るは何んの力ぞ

いつも君は犬に好かれき見知らざる犬さへ千切れんばかり尾振りき

「この国」と言ふときふつとさみしくて何かまとまらず春の宵

なまなかな情けかけられ情けなくなりたる身体(からだ)湯に沈めゐつ

祈りとうことを久しくせざるかなせめて机上の土鈴を振らむ

木のこゑと風のこゑとがまじりあふ秋の硝子を磨きてをれば

停車場(ていしゃば)に札(ふだ)を買ふとき白銀(しろがね)の貨(かね)のひゞきの涼しき夜なり

さかんなる火事に見ほるるわが顔を夢にみてをり何燃えてゐむ

リモコンが見当たらなくて本体のボタンを押しに寝返りを打つ

「どこにゆくのだどこにゆくのだ」走ろうとしても砂漠は許してくれぬ

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