2010年12月のアーカイブ

髣髴(ケシキ)顕(タ)つ。速吸(ハヤスヒ)の門(ト)の波の色。年の夜をすわる畳のうへに

ねむれ千年、ねむりさめたら一椀の粥たべてまたねむれ千年

大言壮語美しかりし男らもなし二方より野火は放てど

山深きあかとき闇や。火をすりて、片時見えしわが立ち処(ド)かも

手をつなぐためにたがひに半歩ほど離れたりけりけふの夫婦は

灯台に白きちいさき柵の見ゆさっきまで手が握りていたり

花のため切られし茎のきみどりの匂い強くて少したじろぐ

たとへばジョージア・オキーフの花 真鍮のノブを回したところに待つは

旗また旗のつづく市街のいくたびも思われて白いタオルをたたむ

張りのある声の戻らば走りゆく橇を曳きゐる鹿呼びとめむ

鹿の肉切り裂くに顯(た)つ伏す鹿の伏せし睫毛の伏せし深翳

かたつむりとつぶやくときのやさしさは腋下にかすか汗滲(し)むごとし

雪の夜はをみななるわれ温石(をんじやく)の言葉となりて夫を寝(い)ねしむ

燐寸使ふことの少なくなりしより闇照らすなし濃密の闇を

誕生日祝ういわおうエスキャルゴオの殻から黒い身をぬきだして

ジャガイモの芽を丁寧にとりながらまだ沈黙に慣れない背中

木陰にてさくりと鍬をふるう祖父影をもたぬは哀しきことよ

〈中ピ連〉をネット検索せしときに「中年ピアノ愛好者連盟」が出る

薬臭のなかにかすかに乳の香す母をベッドへ抱きおろせば

もう充分にあなたのことを思つたから今日のわたしは曼珠沙華

綿飴かい うんにや、ひとだま 石垣をふはり越ゆるはほんに美味さう

ま夜なかのバス一つないくらやみが何故(なぜ)かどうしても突きぬけられぬ

老犬の日向ぼつこを眺めゐる父かな母かな仲よく老いぬ

産むという言葉の不遜わたくしは子を運び来し小舟にすぎず

冬山の遠き木靈にのどそらせ臟腑枯らして吠ゆる犬あり

覚めぎはの足冷ゆまこと冬来たる凛乎ときたる冬嘉(よみ)すべし

ずっと前の約束の時刻が記してあるポケットの中の紙切れを捨つ

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