2011年02月のアーカイブ

いつのとき遂げんひそかなる冬の旅花しげき三椏を幻として

冬椿、手ふれて見れば凍れるよ、我が全身ををののかしめて

夜半の湯に肉塊のわれしづむとも地球はうかぶくらき宇宙に

外(と)にも出よ触るるばかりに母のゐて教へたまひしやしやぶしひかる

肩を落し去りゆく選手を見守りぬわが精神の遠景として

去年の冬のわが知らざりしわれとして来て蠟梅の香(かう)にまじりぬ

列なりて入国審査待つ人らこの国の外にはみ出しながら

夥しき未知の箪笥の育ちゐる林と思ふ雨水の午後に

生きがたき世と思ふ夜半開きたる丘(きう)の言葉もやせがまんなる

はくれんの花閉ぢかけて閉ぢきらぬ春宵ながく返事を待てる

こちらは雪になっているのを知らぬままひかりを放つ遠雷あなた

カーテンに春のひかりの添う朝(あした)はじめて見たり君の歯みがき

雪を落とすために震える黒い傘細部まで見よという声がする

日にうとき庭の垣根の霜柱水仙にそひて炭俵敷く

人のをらぬ改札口を通り過ぎやうやく僕の無言劇果つ

看板に〈傍観者〉とありときをりは店主が出でて小窓を磨く

歌棄(うたすつ)とう地名を知りぬ歌棄の地には如何なる月さしのぼる

中庭にはたんぽぽ長けているばかりホムンクルスが薄く目をあく

校庭に脱ぎ捨てられたジャージ、靴、夢 一斉に朝になろうか

とつぷりと暮れたる街に漕ぎ出だす身はよるべなき遺伝子の船

金あらば生くるに易き老後とぞ老後の後はそれでいいのか

春立つとけふ精神のくらがりに一尾の魚を追ひつめにけり

腐食のことも慈雨に数へてあけぼのの寺院かほれる春の弱酸

「それは何か」ともう食べぬ亡父の声したり巨峰もて闇をよぎりゆくとき

月別アーカイブ


著者別アーカイブ