2011年05月のアーカイブ

くちなはの水を切りゆくすばやさをちらと見しより心やぶれぬ

たまり水が天へかへりてかわきたるでこぼこの野のやうにさみしい

溜められし雨水に残る死のにおい凡庸のわが庭に撒かるる

叫喚(さけび)上ぐ高層ビルの解体の瞬時逃げおくれしたましひが

戸棚よりコーヒーカップ取り出しぬそつと世界のどこかに置かむと

体には傷の残らぬ恋終わるノンシュガーレスガム噛みながら

微生物ひきつれ弥陀はたたなづく青垣を越ゆしたしたと越ゆ

死者の魂(こん)翼に乗ると空みつつまなこ澄みけむ古へびとら

夜の更くるお茶の水橋の下びには人面(じんめん)なして葛の葉が吹く

薄氷(うすらひ)の上を生きつつみひらけばきみ立ちて舞ふ月のおもてに

ひるがほのかなたから来る風鳴りが銀の車輛となる夏の駅

海嘯ののちのみぎはは海の香のあたらしくして人のなきがら

底ごもる地下鉄の音過ぎゆくを跨ぎて暗しわれの家路は

ハロー 夜。 ハロー 静かな霜柱。 ハロー カップヌードルの海老たち。

横にいてこうして座っているだけで輪唱をするあまた素粒子

死者に逢ふ、ことだつてある……… 写真帖(アルバム)を繰るやうに街角を曲れば

哲学を卒(を)へしこころの青々と五月、机上に風ふきわたる

竹・藁・葦こまかく堅く編みつぎてここにもモンスーン圏に生くる者たち

どこへも届かぬ言葉のやうに自転車は夏の反射の中にまぎれつ

頬のつめたきはずのひとりをさがしつつ蕾のおほき庭を歩めり

この母に置いてゆかれるこの世にはそろりそろりと鳶尾(いちはつ)が咲く

木の匂ひ風がはこぶに銀漢の下に骨のなきにんげんの立つ

初夏の陽に青みてうかぶ種痘あとわれをつくりし父母かなし

丈三尺伸びし黄菊や管(くだ)菊やビンラディン生きて逃がれよと思ふ

遠くに立っていただいたのはよく視たいからだったのに しずかな径で

うなだれて洗ひつづけるこの世なる薄明かりなるひとつのあたま

月別アーカイブ


著者別アーカイブ