2011年06月のアーカイブ

あたらしき連れあひに媚ぶるマレー熊の映像見てをり愉快にとほく

「幽霊とは、夏の夜に散る病葉(わくらば)のことです」とその街路樹の病葉が言ふ

枇杷の花ひつそりと咲く停留所に待ちつつバスは死んだと思ふ

こないだは祠があったはずなのにないやと座りこむ青葉闇

然(さ)ういへば今年はぶだう食はなんだくだものを食ふひまはなかつた

うぬぼれていいよ わたしが踵までやわらかいのはあなたのためと

烏帽子岩あさひに光るここを過ぎわれの呼吸のふかく乱れむ

長き貨車だらんだらんと出て来たるトンネルのごと我が哭きおり

さよならのこだまが消えてしまうころあなたのなかを落ちる海鳥

夜の暗渠みづおと涼しむらさきのあやめの記憶ある水の行く

小雨降る夜の渚に傘捨てて走れるわれの ふるさとここは

だきしめてやりたき肩が雑踏にまぎれむとして帆のごとく見ゆ

ジュズダマの穂をひきぬけばひとすじの風で河原と空がつながる

〈弧(ゆみ)をひくヘラクレス〉はも耐えてをり縫ひ目をもたぬひかりのおもさ

途方もなく高き暗黒より落ちて来る雨水がただにデモを濡らしぬ

帝王のかく閑(しづ)かなる怒りもて割く新月の香のたちばなを

飛鳥仏に会いたるのちは貌という果実のひかり夕べの奥に

こひねがい潰(つひ)えたる夜を黙しゐて子の万華鏡のさまざま覗く

つばくろが空に搬べる泥の量(かさ)ほどのたのしみ君は持つらし

傷あらぬ葩(はなびら)のごとかばはるるうらがなしさに妊(みごも)りてをり

梅雨くればふかきみどりに揺れやまぬ肌のひかりがこの国のひかり

てのひらに稚きトマトはにほひつつ一切のものわれに距離もつ

月光の溜る机上に脚すこし開きてコンパス泳ぎはじめる

寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいる

オレンジの切り口あかるき朝の卓遠くで鹿が角を切られる

泣き濡れてジャミラのように溶けてゆく母を見ていた十五歳(じゅうご)の夜に

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