2011年10月のアーカイブ

寝室に行けばわれよりも早く来てベッドに待てる月光に触る

啄木の日記の上に目覚むれば干し草ほどに乾ける活字

杉爺(すぎじい)の中のこだまを呼びにきて若きあかげら若き首をふる

切株の裂け目に蟻の入りゆきて言葉以前の闇ふかきかな

花火咲き散りにしのちに隕ちてくる闇の重さに母と寄りそふ

きつとある後半生のいつの日かサヨナラゲームのやうなひと日が

しよんぼりと霧に飢ゑをるえんとつのまるみなり日暮れはこころも猫なり

ウオッカといふ牝馬快走その夜のわたしの肌のやすらかな冷え

ノウミソガズガイノナカデサドウシテセカイハイミトコトバニミチテ

フランスの語彙を学べるわが上にああ月(リュヌ)といふ此岸の出口

手品師の右手から出た万国旗がしづかに還りゆく左手よ

故郷近くなりて潰せるビール缶の麒麟のまなこ海を見るべし

ときおりは呼びかわし位置を確かむる秋の林に家族は散りて

ぼそぼそとももいろの塊(かい)食べながらハムも豚だと思い出したり

大馬(おほうま)の耳を赤布(あかぬの)にて包みなどして麥酒(ビイル)の樽(たる)を高々はこぶ

秋光のいまなにごとか蜘蛛の巣に勃(お)こるまでわが視野の澄むべし

〈姦〉なしてマヌカン積まれしコンテナ車過ぎしか不意に寒ふかき夕

夕かぜのさむきひびきにおもふかな伊万里の皿の藍いろの人

燠のごときひかりと思うガラス戸に身をつけて見る闇の海の灯

天心に半月清かに駆けており君を想わんための一時

うるわしく人を憎んだ罰として痒みともなう湿疹が生(あ)る

河二つぶつかり合えば冬近き朝々を靄街深く来る

才われにすこし劣りて姿よき友と啖へり朝引きの鶏

終わりたる友情なれど植えくれし万年青(おもと)は今年もつぶら実を抱く

殺される自由はあると思いたい こころのようにほたる降る夜

夕山をしぐれの去りて石蕗(つわぶき)は石段よりも光りいるなり

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