2012年03月のアーカイブ

氷塊に映りておれるわがからだ輝く鋸(のこ)に引かれはじめつ

はれやかな空調あればこの春の気配は消えてひとり来ている

雨ゆゑにブルドーザーが休む日の地表いまだけ本音のにほひ

夕ぐれは焼けたる階に人ありて硝子の屑を捨て落すかな

妬心を鎮めゐたれば家並より炬火(きよくわ)のやうなる月のぼりくる

同じ場所にとどまりたければ走ること(ただし黒鍵は踏まないように)

白堊(チョーク)をばきゝとひゞかせ一つひく文字のあとより起るかなしみ

水際に夕日を引き込む重力が遠いわたしに服を脱がせる

しらしらと老いのしら髪ぞ流れたる落葉の中のたそがれの川

だまっても口がへらない食卓にわたしの席がみあたらないが

たつぷりとみづ注ぎても焼けてゐる砂地かひとをまた恋ひてをり

生まれつきのことなんだから 凍ったりする 離さずにゆめの女の人のにおい

かつと燃えるウヰスキイの夏ぞら 弱々とたかくのぼらぬ煙突のけむり

紙ふぶき大成功の、安田大サーカスというひとつの星座

わが泣くを少女等きかば/病犬の/月に吠ゆるに似たりといふらむ

走れトロイカ おまえの残す静寂に開く幾千もの門がある

暴風雨(しけ)あとの磯に日は冴ゆなにものに驚かされて犬永う鳴く

円周に(指は潰れてしまったが)穴あけ回転木馬を降りる

樹(き)によりて物を思ひぬ、君去りて朽葉しづかに匂ふ秋の日。

シャボン玉まだ喜べる子がふたり 光の中に光が増える

水槽の魚運ばるるしづけさを車中におもへばたれも裸体なり

父われを見むと来たれる東京の子もうれしみて席に加はる

校庭に水木見上げて立ちおれば事務長が来て水木見ずゆく

電車でも眠ってともだちの部屋でも眠ってなんのために行ったのか

人間を休みてこもりゐる一日見て見ぬふりの庭の山茶花

駆けつこの迅きは英雄となりて墜ち鈍足の群れに射せる黄昏

鳩の咽喉腫れしゆうべは西空の奥ふかくあかあかとにじむ夕映え

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