2012年05月のアーカイブ

爆音のきはまるときに首のべて大気の坂を鉄のぼりゆく

夏草をからだの下に敷きながらねむり足(た)りたれば服濡れてをり

さびしくて渡りにゆくよ真夜中にふくらみながら橋は待ちたり

教科書の詩を読みながらどうしても唄ってしまう子がやり直す

絆創膏二つ貼りいる左手の指より初夏の朝が始まる

屈折率ほどせいひくくみえながら水に沿(そ)うさまざまのはるの樹

沈黙は苦手といふより恐怖なり 顔まつしろな牛がひしめく

病窓に下界を見れば辛うじて犬だとわかるかたちのゆらぎ

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る 其の八重垣を

ゴリキーのいのち果てしはきのふにて今日は日食にこころいきほふ

わが書きし記事のたぐひや日日の排泄に似てただ忘れたき

ある時は小さき花瓶の側面(かたづら)にしみじみと日の飛び去るを見つ

多摩川の土手を光らせ無防備な季節は腕を組んでやって来る

逆立ちて視る風景よわたくしは芯まで熱き地球儀の脚

帰宅してあかり灯せばくらやみが箪笥のすみに逃げ込むところ

乳鉢のやさしき窪みに磨られいる硫酸銅や菫や血など

貴人(あでびと)は誰よりうけし勢力(いきほひ)ぞわれに詩あり神の授けし

狩られては低き草生に身を伏せてかつがつ在るを鳥とおもふな

軋みつつ人々はまた墓碑のごとこの夕暮れのオールを立てる

春の大気かぶりを振ってまぜかへすレトリーバーの毛脚ふかぶか

掌のとどくはるかな位置に黒曜の髪の澄みつつ少年のあり

「ロバの耳」がたくさん落ちている穴へ私も落とす夕べの耳を

君の髪に十指差しこみひきよせる時雨(しぐれ)の音の束の如きを

同年代そは幻よ春陽射すひと日を隔てたるゆゑひとり

アスファルトから靴を引き抜くゆらゆらと炎天の首都ただひとり行く

わが乗れる山手線がうつりをり切手博物館の窓それぞれに

ひばりありがとうほととぎすありがとう手をふりながら年老いてゆく

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