2013年06月のアーカイブ

真夜中に義兄の背中で満たされたバスタブのその硬さをおもう

塀の上を過ぎゆく猫に見られつつストッキングに片足とほす

外苑の縁の彎曲あゆみをればみどり濃き人ちかづいてくる

初心者の衒(てらい)にあらむこそこそとメガネのレンズふく昼さがり

だれもみな手首に鍵をゴムで留めほとんど裸で水に入った

百千体じぐざぐに並ぶ石仏のかたぶきしまま夜は眠らむか

麦畑 ひばりが一羽 飛び立ちて… その鳥撃つな 村人よ!

地下街をキックボードで滑りゆくみずがね色の猫やなぎたち

救ひなき裸木と雪の景果てし地点よりわれは歩みゆくべし

一昔前のやうなる水村(すいそん)をバスより見をり旅にあらねど

一九四九年夏世界の黄昏れに一ぴきの白い山羊が揺れている

幼子は幼子をふと見返りぬふたつ家族のすれ違ふとき

残照のなかにおよげり鉄塔のさきの四角の台にひとゐて

たましひが躰のなかで泪する しづかにひととき泣かせてやりぬ

するキスとしてくれるキスどちらかは選んでほしい しないのは無し

午後四時の地下鉄に誰もまどろみて都市の腸(はらわた)しづかに傷(いた)む

詩とはなに 硬く尖れる乳首を舌にもてあそぶときの陶酔

地球は洋梨の形であると書かれをり うふふふふふと読みつつ笑ふ

イカルス遠き空を墜ちつつ向日葵の蒼蒼として瞠くまなこ

夏草のくさむらふかく住む母のポストにま白な封書きている

昼のバス閑散として黒人の運転手軽やかに聖歌を歌ひ出づ

少年はいつもむきだし 天からの手紙に濡るるその眉と肩

「お上んなさい」女の声を読むわれの右手は伸びる品川巻に

冬日てる街あゆみ来て思ひがけず吾が視野のなかに黒き貨車(くわしや)あり

交番の裏窓に見ゆる食器洗剤の黄色の液は残り少なし

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