2013年10月のアーカイブ

10月31日休載します

川を呑み川を吐きだす橋といふさびしきものの上を歩めり

新しき瞬間がありネオンサイン必ず消えてまた灯るとき

雲を雲と呼びて止まりし友よりも自転車一台分先にゐる

眼鏡屋は夕ぐれのため千枚のレンズをみがく(わたしはここだ)

にぎりしめる手の、ほそい手の、ああひとがすべて子どもであった日の手の

箸かろく蕎麦つまみ上げ先をふと撫づるがごとく即すすりたり

降る雨の夜の路面にうつりたる信号の赤を踏みたくて踏む

眼も魔羅も老いさらばえよわがものにはやもはやなりてしまえよ

子ども神輿のワッショイワッショイやけくそな掛け声さえも受け継がれてる

切除されし妻の乳房は黒々と小さくなりて盤に置かれつ

ふるさとで日ごとに出遭う夕まぐれ林のなかに縄梯子垂る

紙ひとえ思いひとえにゆきちがいたり 矢車のめぐる からから

わたしたち全速力で遊ばなきや 微かに鳴つてゐる砂時計

すこしづつ息のはやさがずれてゐて合はさつた手のおもさかんじる

未来より借り物をするさみしさに書物なかばの栞紐ぬく

〈様式〉のまにまに花を描きいそぐガッシュの赤がすこし足らぬに

もう愛や夢を茶化して笑うほど弱くはないし子供でもない

ただの日となりてかろうじて晴れている十月十日ジョギングをせり

「夕顔の苗は残つてゐますか」とFAXを送る 地下街の花舗へ

夕ぐれは肉のもなかに盛んなる肉屋の指をかいまみるかな

夕光(ゆうかげ)の揺れる縁側 父がいて父のフォークが柿を刺したり

痛がりの乳房を持っていたころに初めて嚙んだこのタブレット

世界ばかりが輝いてゐてこの傷が痛いかどうかすらわからない

飛行士は冷たき空のこと話し外国の塩置いて帰った

───、そして気がつけば君は子犬を抱き上げている

生蒸気がパイプを戻りくる音をとらへて午後のわが耳は鳴る

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