2014年08月のアーカイブ

秋を待たで枯れゆく島の青草は、皇国の春によみがへらなむ

窓ちかく朝顔の苗うゑてまつ病みてゆけざる海のいろの花

兵営に消燈喇叭の鳴るときし南十字はかたむきにけり

ゆつくりと朝の机を拭き終へて場所が居場所に変はれる不思議

離りゐて 思ふはすべなし。常世子は 雛祭に 仕へつらむか

ブルーシートの青は食欲失くす色 三年を褪せることのなき色

処女らに何護らすとわが教ふ手榴弾に火をつけ爆ぜしむる術

両の手を垂れて液体のごとき吾か夜半に明るき小園にをり

建つるなら不忠魂碑を百あまりくれなゐの朴ひらく峠に

子の夢に見られゐるわれ夕闇に螢ぶくろを提げてあゆめば

燕飛ぶ空を仰ぎて立ち尽くすわれ兵たりき人を殺しき

ひとりゐて魚焼きをれば魚の眼の爆ぜてこぼれぬしづかなる日よ

天皇を泣きて走れる夜の道の草いきれこそ顕ちくるものを

戦ひに敗れてここに日をへたりはじめて大き欠伸をなしぬ

明日という日もなき命いだきつつ文よむ心つくることなし

抑留に働きし炭鉱のブカチャチャ炭弟が輸入せるとふ奇跡

夜をこめて板戸をたたくは風ばかりおどろかしてよ吾子のかへると

八月のまひる音なき刻(とき)ありて瀑布のごとくかがやく階段

六十年むかし八月九日の時計の針はとどまりき いま

人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら

よるべなく なほ南溟の空をとぶ。ああ戦友別盃の歌

安物のパズルのような隙間あり この家にあるいはわたしの中に

ピカッドンと 一瞬の間の あの静寂 修羅と化すときの あの静寂

しびれ蔦河に流して鰐を狩る女らの上に月食の月

戦ひにわが友多く死ににけり昭和二十年ひとしく行年十五歳

いつだつて蛍光灯に照らさるるわれは浅蜊の殻より暗し

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