2016年02月のアーカイブ

八階から見ゆる桜は小さかり今逝きましたと器械に告げて

少し長めに生きたることも葡萄パンにまじる葡萄のごとき確率

生きんため夫入院し残さるる時間のために父退院退す

皿汚しながらひとりの昼餉終へ誰にともなく手を合はせたり

どのひとも掌(て)のちさき板見つめをり板のむかうの海や砂漠を

につぽんの壺に嵌りし蛸といふ蛸はかなしゑモーリタニアの蛸

誤植あり。中野駅徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど

いしひろうなんてひさかたぶりのこといしがこんなにつめたいなんて

わたしがいないあいだに落ちしはなびらを丸テーブルの上より拾う

そのかみの染野のあをき夕焼けがはるかに投げてよこす男の孫

カーテンを玻璃戸のうちに巡らせて古書店ノアは灯りそめたり

たそがれの舟に原子の火をのせてあなしづかなるあそび女がゐる

父居らぬ家に目覚めてもう誰も早起きをせず足音も聞こえず

つゝましく 面わやつれてゐたまへば、さびしき日々の 思ほゆるかも

ここに立つここより他に無き場所の空に枝を張り鳥遊ばせて

てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれくる

いくたびも暗証番号拒否されて機械の横に寄りかかりたり

四十五度あげてゑがきし眉尻のをみなら朝をどつと乗りくる

若竹にまたもや先を越されたり私が私を脱ぎたきときを

青駒のゆげ立つる冬さいはひのきはみとはつね夭逝ならむ

胸より胸に抱かれ花にも風にもなる火にもなるもの嬰児(みどりご)と呼ぶ

サリンジャー死にし話題は牡蠣の殻開けて啜らむとする間に終る

大写しされし鯨は赤道をひとつとびして飛沫(しぶき)をあげる

あぢさゐもばらも知らない受刑者は妻と三歳のむすめを詠ふ

生くるため不可欠なものにありし頃一丁の斧美しかりけむ

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