2016年04月のアーカイブ

ひとひらの雲が塔からはなれゆき世界がばらば らになり始む

折り畳み傘で造りの強い傘拡げて差して吹雪く道を行く

犀星は詩のなかにのみふるさとの輝きてをりとほくやさしく

まはだかのことばひりひりはきはきと「二度ととうさんとはあそばない」

緑道を黙って歩く父だった四月の霧をほおひげに受け

なきひとに会いにゆく旅ナトリウムランプのあかりちぎれちぎれて

あくる朝十八になる玄関の金魚はふっと縦に立ちたり

おもふさま隣の境越えて散る椿のあかき花おびただし

ないですって言っているのに渡されて脇にはさんで鳴るのを待った

航跡をのこしつつヨット進む見え若年の未来はた還らざる過去

五年もつダイアリー最早あがなはず来年は大学ノートで済ます

聞きながら胸痛くなるおさなごの泣き声弱まりくればなおさら

前髪を5ミリ切るときやわらかなまぶたを鋏の先に感じる

体重をかけながら刃を圧してゆく受け入れられて息の漏れたり

廃仏となりてふげんは十余年いまだ御身に冥王を抱き

いもうとの戒名はやく憶えおり水に死す「遊水善童女」五つ

人生を悔いたくはなしわたくしも原爆投下せし老人も

みづからの手に織りてゆく未来とぞ思ひしころの鍵が出てくる

頭[づ]のなかに牛がへる鳴く沼地もち頭のそとがはを理髪されをり

萬葉ゼミいよよすたれて筋よきに狙ひをさだめ拉致するといふ

はづかしいから振りまはした花のやうに言ひにくいことなんだけど

全線をPASMOに託し電車賃という距離感を喪いにけり

志野に活ければ網目透く花貝母春のひと日をうつむきて咲く

同じ目線に語らむとして屈みたり幼子もかがみわたしを見上ぐ

他人のみ楽しそうに見ゆるとき花降りきたる心のなかに

よそゆきの母としばらくぶりに会ふ黒いテリアの散らばるブラウス

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