2016年09月のアーカイブ

流れゆく川のきらめき木の間より見えずも聞ゆその川の音

水底[ミナソコ]に、うつそみの面わ 沈透[シヅ]き見ゆ。来む世も、我の 寂しくあらむ

第五演習室へ提げてゆく『中世の秋』 あきらめてきたもの

木々が枯葉を落とすみたいにかなしみを手放してゆくひとになりたい

誰がために揚がる半旗かふくらんで刻々と風のかたちを示す

曇り日の複写機ひらき詰まりたる雲のひとひらつまみ出したり

仕事終へ「また明日」といふ人のなくコトッと閉めぬ事務所のドアを

車椅子重たくなりて夢のなかの母はいづこを歩みゐるやら

発音をせぬKの文字 ナイフもておのがいのちを裁ちし男よ

すぎされば悪意も秋の陽だまりのなかにちいさく吸われてゆけり

包丁で刺したる男「恨むならヒッタイトを恨め」と呟けり

ひとつづつ透きゆく卵パックには阿古屋貝のかなしみが溜まる

どこまでが路と分らぬ濃霧なり戦場を人生を想ひつつ行く

残像をひきて振り子は狂ひなき軌道のさきのたましひを打つ

今日一日身を鎧いいしジャケットの型くずれたり椅子の背が着る

「斎藤さん」より少しだけ美しい「真夏の夜の夢の斎藤さん」

寝入りばな何を騒ぐと服たちをタンスに叱ればケータイ現る

一匹の死魚を貰いて一芸を見せるバンドウイルカを目守[まも]る

車椅子の旅「一階の左奥‥‥」「二階の右隅‥‥」と検査室めぐる

むかふ向きに何して遊ぶ二人子かチョークで描きし扉を閉ざし

読みくるる「みんなちがってみんないい」金子みすゞは自死したんだよ

けふもまた「恋は水色」の音にのつてわらびもち売り来たる不可思議

おまへにはいつぺん言ふておかねばと仏は足を組み変へたまふ

犬を洗ひ枇杷を洗ひて一日[ひとひ]過ぎゆふぐれに子の指を拭へり

ゆふぞらを身ひとつで行く鳥たちは陽の黄金(わうごん)につつまれて飛ぶ

ヘッドフォンに青い嵐が流れゆくあの子の現在[いま]はジャズの土砂降り

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