2016年10月のアーカイブ

僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向うに揺れる

ひとりきてひとりたたずむ硝子戸の中の青磁の色のさびしさ

新しき眼鏡にせんと思いおり苦しみてもの書きたるのちに

足早のギマールが地下鉄に乗るまでを確かめ秋かぜの中

漂へるたましひのかたちエシャロットの若根をきざむ桜まふ午後

クロアゲハ横切る木の下闇の道 許せなくてもよいのだ、きつと

衣着けし犬がひかれてゆく土手に野良犬が首をあげて見てゐる

月出でて棹影しかと水にあり付箋のごとく ここに 見えるか

父の口に運ぶ白粥ほろほろとこぼれてしまう白はせつなし

赤煉瓦倉庫の海べ胸もとの漆塗り朱のブローチ冷ゆる

職場の恋職場で話す 友は彼を「〈七階〉が」って居る階で呼ぶ

「もう秋ね」「もう十月ね」もうという枕詞があるかのごとし

砂時計ひっくり返す人消えて針の時間が追い越してゆく

シュリーレンさよならゆれるシュリーレン甘い生活だったシュリーレン

傘さしてゆくにんげんをわらひをりたつぷりと雨にぬれて樹木は

虚空とぞ言ふべかりけり蝙蝠の飛ばなくなりし団地の空を

森茉莉は美少女なりきひとめぐりすれば老婆となる鷗外展

剪定の枝の香りの鉛筆を何本も盗らる 何本も削る

五分ほど遅れてをれば駅ごとに日本の車掌は深く深く詫ぶ

ほの暗き腋は植物にもありて葉腋に咲く金木犀の香

ぺらぺらの通勤定期の文字流れかすれたる頃、新品届く

につぽんを捨ててよし若き博士らよわれもいはれきいまにわがいふ

それなりに背負うべきものもあるからか用紙がくぼむまで印を捺す

千年のいのち寿ぎ家持が挿頭しし〈ほよ〉か 千年を仰ぐ

「コンセントを抜く」は間違ひ「プラグを」と直して節電の貼り紙とす

モノクロームの午後はノートの罫線をなぞり続ける左手がいる

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