宮本永子『青つばき』(2013)
2013年に出た歌集のなかで宮本永子のこの一冊は特に好きな歌集だった。前歌集『雲の歌』から17年ぶりに出されたという。「ひとりきり家族かへらぬ雨の夜に地球儀まはせば海もまはりぬ」などの歌があり、発想の面白さが散りばめられている。軽々とそれを表現されているところも読んでいて楽しかった。日常の何気ない場面でも、少し見方や考え方を変えれば歌は大きく飛んで行く。
なんとなく続いていゆく野のなかの道。まっすぐでなく少し曲がっていたり起伏のある道だろう。道に対する好みが私のなかでははっきりとしている。なつかしさのある道をみつけると遠回りでもそっちの道を歩きたくなる。この歌のなかの道は私の歩いてみたい道だ。
「継ぎ目といふのがないのが不思議」と、道の継ぎ目ということを考える所が作者の発想の面白さだ。「ない」といわれると継ぎ目の「ある」道を考えてしまう。都会だと舗装された道だし、継ぎ目やいきなり切れているところばかりだ。
家と家との境のあらくさ刈られゐて見知らぬ国への近道が見ゆ
こういう道の歌も『青つばき』にはある。
不思議の国のアリスやとなりのトトロに出てくるような誰も知らない不思議な道。その道を行ってしまうと自分がこの世からふっといなくなりそうな道・・・。探偵ごっこが好きだった息子が小学校からの近道をよく教えてくれたけれど、近道というよりは遠回りだった。誰かの畑の中の道を通ったり、家と家の間の狭い壁に沿って進んだり。何回教えてもらっても、一人では行けないややこしい道だった。
日常のなかにふっと現れる異次元的な感覚のなかに、子供の頃は生きていたことをこの歌を読んでいて思い出した。