まるまるとまるめまるめよわが心まん丸丸く丸くまん丸

木喰上人『歌集』

 

この歌は佐佐木幸綱が歌集『ムーンウォーク』の中で「まん丸が好きな木喰の歌集にはいつもすずしき十五夜の月」の歌に詞書として使われていたことにより知った。木喰は江戸時代後期の仏教行者、仏像彫刻家である。「木喰戒」というものは遍歴と遊行を仏道修行とし、味付けした料理を食べず塩などもなしで木の実や草の実を食して生きることだという。その木喰道をつらぬきながら61歳から彫仏を始め90歳を越しても全国を行脚し仏像を彫り続けた超人的な人物であるという。

 

「まるまると」は口ずさんでいるとなんだか楽しい歌である。心がぽわんと開放されていく。木喰の彫った仏像は微笑み仏が多く、眼も顔も丸くウインクしている顔もある。この歌のとおり人々のこころが丸く仲良くいてほしいと願いながら彫ったのだ。木喰の存在は没後1世紀以上の間忘れられていたが、美術史家の柳宗悦が大正時代にその魅力を発見、研究したことにより再評価された。

 

木食のはたかのすかたなかむればのみやしらみのゑしきなりけり

鞍馬寺を心にかけし皆人の心の月はいつもくらまじ

 

木喰の歌にはまん丸の歌ようにリフレインで楽しませる歌や、おかしみのあるものが多い。一首目、「裸の姿眺むれば蚤や虱の餌食なりけり」と、飾らずに日常生活を詠っている。二首目は「鞍馬寺」と「くらまじ」でちょっとした駄洒落の歌である。

 

木喰の彫った仏像は祀られて拝まれるだけでなくその土地の子供たちの遊び道具になったり、病気平癒のため肌をさするものとして人々に触れられ、顔や身体が磨り減ってしまったものも多いという。まん丸を願った木喰上人だからきっとそれらを心から喜んだであろう。