無人野菜売場に小さき筍が男雛女雛のごとくに置かる

今井千草『パルメザンチーズ』(2014)

 

歌集名も思い切っていて楽しく、中身も次から次へと読者を飽きさせない一冊である。春先だろうか、無人の野菜販売所にその地でとれた野菜が置かれている。そのなかに大きさの少し違う二つの筍が置かれて「男雛女雛」のように見えた。筍の形というものを上手く捉えていると思う。

 

トラックの荷台へ放置自転車は仔牛のように積まれ行きたり

バーガーに挟まれているくたくたのレタスのごとし夏風邪のわれ

 

比喩の面白さが今井千草の特徴の一つである。放置自転車が積まれて、ハンドルがある方向を向いている感じや立っている様子は、トラックに積まれて運ばれてゆく仔牛のようでもある。またハンバーガーに萎れたままに挟まっているレタスは、日頃は注目されにくい存在であるが、夏風邪で元気のない作者に一首のなかで変身する。比喩は、喩えるものと喩えられるものが離れた方がいい、意外なものを連れてきたほうがよいと言われるが、今井の比喩はそんなに力んで作られた比喩でない。何か親しみを感じさせるかわいらしい比喩で、そこがいいと思う。

 

「しでかしたことの始末は自分で」と言えばすぐさま電話は切れたり

息子()にもらいしマウスパッドの美少女はわけのわからぬ小火器を持つ

ISSが太陽表面過ぎるとき蚊トンボほどの影は映るも

 

現代の生活をよく見ていろいろな所から今井は素材を拾ってくる。一首目はオレオレ詐欺に対する対処法。冷静沈着である。二首目はアニメのキャラクターであろうか。この頃見かけるイラストを思い浮かべる。三首目は国際宇宙ステーションを映像で見ている歌。気の遠くなるような距離と宇宙の広さを「蚊トンボ」に感じる。常にアンテナから身めぐりの変化をキャッチし、どの歌も楽しそうに詠まれている所が印象的だ。