点子ちやん、点失ひて純白の老猫の写真撮つてもらひぬ

          石川不二子『ゆきあひの空』(2008 年)

 

仔猫のとき頭頂部に黒い小さな点があったのに、大きくなるといつの間にか点が消えてしまう――。真っ白な猫にはよく見られる現象で、「ゴースト・マーキング」などと呼ばれている。作者の愛猫も、小さいころに点があったので「点子」と名付けられたのだろう。

猫好きにはよく知られていることでも、猫を飼わなければ一生知らずじまい、という事柄がいろいろある。つれあいに誘われて猫を飼うようにならなければ、私もこの一首にふと立ち止まるような感じで心ひかれることはなかった。わが家の白猫も、仔猫のときにあった黒い点にちなんで「てん」という名前をつけたのである。

「点子ちやん」という表記がまことに愛らしい。ケストナーの『点子ちゃんとアントン』を思い出したりもする。「老猫」だから、点を失ったのはかなり以前のことなのだ。それなのに、作者がふと名前の由来を思い出したりしているのは、そろそろ寿命かな……という高齢になったからではないだろうか。

「あなた、小さいときは点があったわねえ。だから点子ちゃんって付けたのに」とやさしく猫を撫でる作者は、遠からぬ別れを予感している。自分で撮影せずに、誰か写真の上手な人に「撮つてもらひぬ」というのも、いつか「点子ちやん」を思い出すよすがにするためである。そういうことをいろいろ想像すると、何だか泣けてくる。

猫を飼う前の自分であれば、この歌をここまで鑑賞することはできなかった。経験や知識がないばかりに、作者の心情を十分に汲めずに読み過ごしている歌が随分とたくさんあるのだろうな、と省みる。