百八まで卿らは生きよ吾は間なく終らむといふ火酒また呷り   

高橋睦郎『続続・高橋睦郎詩集』(2015年)所収詩集『永遠まで』より

※「卿」に「きみ」、「吾」に「あ」、「呷」に「あふ」とルビ。

 

「永遠まで」と題された作品から。副題が「モンゴルの詩人たちに」。新刊の『続続・高橋睦郎詩集』は、日本語の全文芸ジャンルにまたがって創作をしてきた詩人の豊穣な言語宇宙を一度に拡げてみせる集成である。詩集『永遠まで』のタイトルとなったこの作品は、詞書的な役割を果たす短い散文詩を、短歌一首に付すという形式で、九つの章をもって構成されている。その、詩の部分も引く。

 

この国の詩人たち 老いも若きも

揃って なんと腹が出て 酒好きなこと

英雄の名を戴く火酒を のべつ呷り

客のわれらにも イッキ飲みを強要

酒なしに詩が書けるか! と嘯く

そのくせ ときに小声で嘆息する

おれたちは飲みつづけて 遠からず死ぬ

きみたちは百八歳まで生きるがいい と

 

モンゴルの詩人たちは、命の躍動する現在に賭けている。そこから、そのきっぱりとした無所有のすがすがしさが生まれてくる。その大酒を飲む姿は、野放図でやけくそのように見えながら素敵に自由である。広大な空間に囲まれていると、小さく時間を区切って生きることの無意味さがより痛切に感じられ、短い時間は永遠に溶けてしまうのだ。

詩人は、書くものがみんな挽歌と鎮魂の詞と追悼文になってしまうような、そういう年齢にさしかかっているらしい。戦後の日本の文芸、詩の世界を彩った幾多の輝かしい名前が、この一冊の本の中では想起され、讃えられている。