白色の絵具ばかりを買ひ足してゐた頃のこと雲を見ながら

         山下冨士穂『覚書』(2015年)

 

写真を撮っていると気づくのだが、風景写真のよしあしは、雲の形や空に占める割合にかなり左右される。雲ひとつない快晴は美しいが、面白みに欠けるのだ。だから、風景画を描く人もきっと、青空に雲をどう配置しようか、いろいろと考えるはずだと思う。

「白色の絵具ばかり」買い足していた作者は、何の絵を描いていたのだろう。「雲を見ながら」とあるから風景画だろうか。あるいは、雲を見て、その自由さに憧れていたのかもしれない。山村暮鳥の「雲」の中の一篇を思い出す。

 

おうい雲よ
ゆうゆうと
馬鹿にのんきさうぢやないか
どこまでゆくんだ

ずつと磐城平の方までゆくんか

 

この歌の作者は、風景画とは全く違う絵を描いていたのかもしれない。白を多用した画家と言えば、ユトリロである。最も充実していた制作時期は「白の時代」と呼ばれ、精神的には不安定な時期だったにもかかわらず、静謐な雰囲気を漂わせた作品が多い。ユトリロにとって「白」はどんな意味を持っていたのだろう、そして、この歌の作者にとっては。

色の名を詠み込むと、歌の印象が鮮やかになる。読む者それぞれがさまざまな白い雲を想像できることもあり、楽しい一首に仕上がっている。