「父を夫を英霊と呼ぶな」プラカード高く掲ぐる敗戦記念日

       津波古勝子『大嶺岬』(2014年)

 

「英霊」とは、死者、特に戦死者を敬って呼ぶ言葉である。戦死した父や夫、兄弟や息子たちは、皆それぞれ家族にとって大切な存在であるが、「英霊」と美化された言葉で一絡げにしてほしくない――そういう思いをこめた「プラカード」であろう。

「英霊」と呼ぶことは、戦死者の美化のみならず、戦死そのものの美化でもあるだろう。しかし、ある者は手足を失い、ある者は飢え、到底きれいごとでは済まされない苦痛の果てに命を失った。故郷の家族を思いながら死んでいった人たちの無念さを思うとき、「英霊」などと持ちあげられて何が嬉しいだろうか。

作者は、沖縄出身の歌人である。靖国神社に合祀された沖縄県の戦没者の遺族らが、追悼の自由を侵害されたとして合祀の取り消しと損害賠償を求める訴訟も思い出す。

八月十五日を多くのメディアは終戦記念日と呼ぶが、この作者は「敗戦記念日」と呼ぶ。決して「自虐史観」などではない。「プラカード高く掲ぐる」胸には、過去を見据え、二度と戦争を起こさない国であり続けてほしい、と願う気持ちが満ちている。