八月の耳はとがれりバケツ打つ雨音しきりにポツダムポツダム

      春日いづみ『八月の耳』(2014年)

 

一九四五年八月、英米と中国が日本に対して降伏を勧告するポツダム宣言が受諾され、戦争が終結した。後にソ連も加わり、四主要連合国の宣言となった。歴史的評価や無条件降伏であったか否か、などについては、さまざまな意見があるだろう。しかし、ポツダム宣言があって戦争が終わったという事実は変わらない。

第二次世界大戦について振り返るとき、「八月の耳」は鋭く尖ってゆく。そして、雨に激しく打たれているバケツが「ポツダムポツダム」という音をたてているように感じてしまうのである。

ポツダム宣言には、降伏の勧告のみならず、民主主義の強化や基本的人権の確立など戦後処理の方針についても明記されている。日本が再出発する際の重要な拠りどころといってよい。作者はポツダム宣言のどこに、耳を尖らせているのだろうか。

歌集のあとがきには、「耳が鋭くなってきたように感じています。世の中の音が大きくなってきているのか、聞こえない音を聞こうとしているのか、声にならない声が聞こえてくるのか」と書かれている。耳を尖らせ、いま何が起ころうとしているのか聴きとらなければ、と思う。