赤ちゃんの産着を着せてゆくように新刊本をフィルムで包む

       熊田新子『不思議な場所』(2014年)

 

作者は県立高校に勤務している。国語の教諭なので、図書館の仕事を担当しているのだろう。新刊本をフィルムで包むという手のかかる作業をしながら、ふと「赤ちゃんの産着を着せてゆく」ようだと思った。

「産着」というのは、生まれた子どもに初めて着せる着物である。新生児用のベビー服ももちろんあるのだけれど、生まれたてのふわふわと頼りない存在には、ボタンなどのないやわらかな着物が最もふさわしい。

図書館司書ではないから、本をフィルムで包む作業というのは、作者にとっては慣れないことのはずだ。おずおずと丁寧に包むとき、「ああ、初めて産着を着せたときもこんなだった」と瑞々しく記憶がよみがえったのである。

「新刊本」というのが「赤ちゃん」と響きあう。子どもたちの本離れが言われて久しい。この一冊一冊が、どうぞ生徒たちの心に届きますように、という祈りも込めながらの作業だったのではないか。真っすぐに詠われた、気持ちのよい一首である。