「気持ち塩を入れます」時のその気持ちよく分からない 白菜しんねり

       柳澤美晴『一匙の海』(2011年)

 

料理用語は、感覚的なものが多い。あるとき、ネットで検索したレシピに、「塩ひとつかみ」という言葉が何度も出てきたので、土俵入りを思い出して笑ってしまったことがある。「ひとつまみ」と混同してしまったのだろう。

それはともかく、「塩ひとつまみ」と「塩少々」では、どれほど違うのか、など迷うこともままある。この歌の作者は「気持ち塩を入れます」の「気持ち」につまずいた。

「ほんの少し」という意味だろうが、レシピ作成者の「気持ち」など、読む方には分からない。さらに言うなら、他者の気持ちはどれほど心を傾けても十分に理解することは難しい。恋する相手であれば、なおのこと、考えれば考えるほど分からなくなってしまう。

結局、この作者は「気持ち多めに」塩を入れてしまったのではないか。「しんねり」と茹であがった白菜が、「多すぎたね」と言わんばかりに作者の目の前に横たわる。人の気持ちを推し量る難しさを白菜が表わしていて、可笑しさと切なさが同時にこみあげてくる一首だ。