ひとしづく、またひとしづく降り出でて秋に入る雨寒からず静か

       宮英子『青銀色』(2012年)

 

文部省唱歌には、歌詞も旋律もなだらかで美しい名歌が多い。中でも「四季の雨」の美しさは格別だ。「降るとも見えじ春の雨」「にはかに過ぐる夏の雨」と来て、秋は「をりをり注ぐ秋の雨」である。この歌の「ひとしづく、またひとしづく」が秋雨の特徴をよく表していることがわかる。

「静か」に注ぐ雨滴は、まだ冷たくはない。移りゆく季節を惜しむように、しんみりと降る。それは、このとき九十五歳を迎えようとしていた作者の、一日一日にも似たしずくだったかもしれない。

宮柊二夫人として知られるが、柊二を見送った後、七十代から精力的に歌集を出版し続けた。その歩みにもまた「ひとしづく、またひとしづく」という言葉を思わされる。静かな雨は、いつか石をも穿つ。最後までユーモアと気品を忘れない、しなやかな生き方と着実な歩みに改めて感じ入るばかりだ。