逆立った髪の先から燃えてゆく裸になった白いそうそく

福島泰樹『空襲ノ歌』(2015年)

現代歌壇で独自の立場を保つ福島の第28歌集が出た。先に出た『焼跡ノ歌』と対をなす歌集である。

この作品には「その裸身が 白いローソクになった 鳴海英吉「五月に死んだ ふさ子のために」」という文章が詞書風につている。鳴海英吉は詩誌「列島」に拠り戦後詩を切り開いた抑留詩人である。

「白いろうそく」は昭和20年3月の東京大空襲で焼夷弾によって焼き殺された作者の姉であろうが、同時にそれば当時、日本中にいたはずの、同じように空襲の犠牲となって焼け死んでいった何万人もの「不特定多数の姉たち」でもある。福島は単に個人的体験を歌っているのではない。残酷でかつこの上なく美しい強烈な視覚イメージを提示することによって、空間を普遍化し、更には時間をも普遍化している。

福島は昭和18年の生まれである。翌19年に母が死去。それも1年前に福島を産んだ同じ病室の同じベッドで亡くなったという。そして20年3月の東京大空襲。この時、福島は満二歳である。記憶はないであろう。しかし、福島はまるで目に前に見ているように歌っている。そのインパクトが現在の日本の進もうとしてる方向に激しい警鐘を鳴らす。美しくも残酷な作品である。