サンタ役させてもらっていたのだと気づく日が来る 輝くツリー

       川本千栄『樹雨降る』(2015年)

 

一度でも子どもに対して「サンタ役」を演じられた親は幸せだと思う。私の息子は保育園に通っていた三歳のころ、「サンタさんに何をお願いしようか?」という私の問いに対して、ぶんぶんと勢いよく首を横に振り、「いや、いらない!ママがいい。ママからほしいの!」とサンタからの贈答を断固として拒否し、私はついにサンタクロースの役割を演じることができなかった。

だから、この歌の作者をとても羨ましく思う。恐らく、「サンタ役」は何年間か続いたのだろう。詠われている段階では、まだ継続している。間もなく子どもが「サンタクロース」を卒業することの寂しさを予想し、はっと「かけがえのない贈り物をもらっていたのは、親である自分の方だったのだ」と気づく。

その段階で既に気づいているのだが、実際にその日が来たときのぽっかりと穴があいたような気持ちは、きっと想像以上につらいのだろうという予測が、「気づく日が来る」という入り組んだ表現になった。電飾を施されたツリーの輝かしさとの対比も利いている。

松岡享子著『サンタクロースの部屋』(こぐま社)は、子どもと本について書かれた名エッセイ集である。ひとたび心の中にサンタクロースを住まわせた子どもは、成長してサンタクロースの存在を信じなくなっても、その空間、つまり「サンタクロースの部屋」を、目に見えない大切なものを宿す場所として抱き続けるだろう――というのが、冒頭に書かれた文章の趣旨だ。たくさんの子どもたちに、広々とした「サンタクロースの部屋」が与えられますように。