四十五度あげてゑがきし眉尻のをみなら朝をどつと乗りくる

田中あさひ『とりがなくあづまの国に』(2015年、角川文化振興財団)

 

 

わかるわかる、笑ってしまいました。

女性のメイクは、おしゃれのためだけでなく、働く社会人の記号としてもなされます。職場にもよるでしょうが、まったくのノーメイクを敢行するのは、男性のノーネクタイと同じく少々思い切りが要ります。

以前は化粧品(いまファッション誌等ではコスメと書かれますが)といえば第一に口紅を思い浮かべたのではないでしょうか。「かつて出逢った葛原妙子は口紅の濃い人であった」(稲葉京子『葛原妙子』本阿弥書店)。このように、昭和期の女性は紅を引くことで心に華やぎを得て、他人と接していたようです。

それが平成以降、「顔の印象は眉で決まる」みたいな記事や宣伝が増えてきました。唇より眉。眉尻をきりっと上げることで、自信が得られると。

出勤前に眉を整えることは、人格を整えること。そうして社会人となり、電車に乗って出かけてゆきます。

 

まもられて生きるひと世もあるものを脚もあらはに曼珠沙華のはな

ペディキュアの十[とを]のちひさき紅顔をパンプスに秘めひとに会ひに行く

あたたかさうなコートをまとひ訪ひ来ればそれだけでよし娘といふは

 

自身のこともふくめ、女性の装いについての思い巡らしが見られます。女性は男性にくらべて、自尊心を持ちにくい状況に多く直面するものです。装いは、その自尊心を支えてくれます。

作者はすでに職を辞されたようですが、身内の女性、あるいは映画や物語に出てくる女性への視線があたたかい歌集でした。