くちばしの散らす花びらひよどりをひかりは誘ふ次なる枝へ

阪森郁代『ボーラといふ北風』(平成23年、角川書店)

 何の花とは表現されていないが、ここでは一応、桜の花を想定したい。春の明るい日差しに満開の桜が輝いている。花をびっしりつけた一枝一枝が輝いているのだ。その光に誘われるようにヒヨドリがやってくる。ヒヨドリは悪食で知られていて、桜でも梅でも、花ごとばりばり食べてしまうので、人間には少し評判が悪い。

 最初、下句を「ひよどりはひかりを誘ふ次なる枝へ」と読み間違えて、ヒヨドリの動きに連れて移動する光を思ったが、よく読んでみると「ひよどりをひかりは誘ふ」なのだと気が付いた。光がヒヨドリを誘っているのだ。そう気が付いたらまた別の魅力を感じた。私の最初の誤読よりずっといいと思う。

 ひとしきり花を食い散らすと、ヒヨドリは光を放っている別の枝に移ってまた花を食い散らす。その時、春の光がヒヨドリを誘導しているように思えるのだ。下句の見立てがとても優雅である。ヒヨドリは花を食い、春の光の秩序を乱すという乱暴者ではあるのだが、同時に、光の誘導に従順であるという自然への親和性もあるのだ。韻律が端正で美しい一首である。

     立ち上がる時の蠟梅四方からひかりに支へられて噴水

     もはや風を容(い)れることなしルーヴルに忘れ来たりし折りたたみ傘

     歳晩の御堂筋を急げるは踏み絵を踏みしことなき人ら