兵器考案その手すさびに創られて撃たれつづけるコの字型針

今野寿美『さくらのゆゑ』(2014年、砂子屋書房)

 ホッチキスという名称の、紙を綴じるための事務用品がある。ただ「ホッチキス」というのは日本での俗称というか一般名称であり、普通名詞としての英語は”stapler(ステープラー)”である。アメリカで「ホッチキス」と言っても通じない。19世紀にアメリカ出身の技術者、ベンジャミン・ホチキスという人がフランスに会社を設立し、兵器・自動車などを製造した。特に、機関銃が主要商品だったらしい。あの事務用品の起源については種々説があるようだが、そのホチキス氏が機関銃の送弾装置にヒントを得て考案したという説が有力である。機関銃の弾を連ねて弾帯として、機関部に順に送り込むシステムが、あの事務用品の、針をコの字型に折り曲げて、連ね(製造過程では、一枚の金属の板に切れ目を入れて、折り曲げるのだろうが)、バネの力で順繰りに先端に送り込むシステムと同じである。とにかく「オチキス社」(フランス語で”Hotchikiss”は「オチキス」に聞こえる。)は兵器製造の傍ら、あの事務用品を製造した。明治時代にアメリカから日本に輸入されたこの製品に”Hotchkiss”という製造会社名が刻まれていたことから、日本ではそれを「ホッチキス」と呼ぶようになったらしい。

 掲出歌は上記のような事情を下書きにしている。機関銃という兵器と、紙を綴じる事務用品という平和な器具を、同じ人が考え、同じ会社で製造されているという対比が鮮烈である。「手すさび」という言葉に作者の強烈な皮肉が込められている。そして、「撃たれつづける」という言葉には当然、機関銃が重ねられる。まるで、あのコの字型の細く鋭い針が、機関銃の弾のように読者に向かって飛んでくるような錯覚さえ感じる。社会的なこと、歴史的なことを踏まえつつ、着想、発想が独自であり、かつ技巧的にも優れた、忘れられない一首である。

     くしやくしやに納まりゐたる花びらがほほと開いてひなげしとなる

     金瓶にて見たる小学教科書はさながら軍記物なる和本

     画学生の名に添へ戦死、戦病死そして一人の消息不明