五年目の一斉捜索 私の時は五日経ったら忘れて欲しい

佐藤涼子「石の裏側」

『1833日目 東日本大震災から五年を詠む』収載

(2016年、塔短歌会・東北 発行/ブログはこちら

 

震災以後の『99日目』から発行されはじめた冊子の6冊目より。

前回の『1466日』では歌が詠まれた場所を示す花山周子さん作成の地図が付され、ひとくくりに「東北」と呼ばれる地方の多様さが視覚化されました。今回は各人の長めのエッセイも掲載され、感覚より思考にうったえる内容となっています。

参加者19名の被災状況は、人により度合いが異なるようです。掲出歌の作者、仙台市在住の佐藤さんは「色々と思うところが多すぎて」これまで冊子に参加できずにいたけれど、「さらに色々と思うところがあり」初参加されたとのこと。

色々、はなるべく色々のまま受け取りたいものですが、佐藤さんの歌そのものはとてもシンプルでした。

 

腕帰る 死者にも行方不明者にも数えられずに手配解かるる

両腕に地震被害の情報をメモした遺体 殉職だった

 

前者は「行方不明者届出解除」と詞書があります。帰ってはきたけれど生きてはいなかった人たちの記憶を経て、冒頭のひとつの意思が生まれます。

すなわち〈忘れて欲しい〉。

行方不明者を探しつづけることはつらい、もし自分がいなくなったら長く探さず早く忘れてもらいたいという、家族や友人などへの思いやりが〈五年目〉〈五日〉の対比表現ですぱっとあらわされています。

佐藤さんのエッセイには、震災直後の芋煮会の話が出てきます。たとえ時季外れでも具が適当でも、鍋を囲んで人と語らいたいという気持ちは、〈忘れて欲しい〉気持ちと同源です。