客電が落ちれば良夜/河岸に劇場〈銀河〉現れて消ゆ

石川美南『遠い鳥』

(2016年、山羊の木)

 

活版印刷によるカード型の短歌(石川美南)+写真(橋目侑季)作品集より。原作は横書きの2行表記です。

小箱におさめられた写真(多くモノクローム)のカードと短歌のカード計60枚は、それぞれの意匠がゆるい連想ゲーム的なつながりをもって、おおむね交互に重ねられています。

この歌の前には、高所から遠望する夜の東京タワー界隈の写真。上半分の空には複数の人々の影が巨人のように立ち上がっています。トリック写真というわけではなく、撮影場所の外壁のガラス窓に屋内のようすが写っているということのようです。

歌の後には、夜の空と海のはざまに灯る海岸線の写真。かしぎながら飛ぶ鳥の目で見たかのように、左上から右下へ斜めにレイアウトされています。

こうしたコンテクストで読む掲出歌は、劇場をひとつの宇宙に見立てたものということになります。「客電が落ちる」は演劇用語で、客席の電気が消えること。公演開始の合図です。

すると写真のなかの人影が、役者にも見えてきます。

舞台でドラマが始まることと、この世の夜ごとに人々の関係が展開することがパラレルであるというのは、まるでシェイクスピアの世界観。壮大です。

石川さんと橋目さんのユニット「山羊の木」発行のカード型作品集は、いくつかの書店やイベントで販売されるもので、新作『遠い鳥』は活版印刷物の展示会会場で買い求めました。詩歌は文字でできている、という当然のことが神秘に思える展示でした。