読みくるる「みんなちがってみんないい」金子みすゞは自死したんだよ

川本千栄『樹雨降る』(2015年、ながらみ書房)

 金子みすゞ(1903~1930)は長らく忘却されていた詩人であり、1980年台半ばに遺稿集が発見されて再評価されるようになった。東日本大震災の直後もテレビなどでその詩がしきりに流されていたことを覚えている。彼女は薄幸なその短い人生を服毒という悲劇的な形で自ら絶った。自死の理由は、単純なことではなく、様々な事情が重なってのことだと思う。

 「みんなちがってみんないい」はみすゞの「私と小鳥と鈴と」という詩の一節であり、人間の個性、多様性を大切にしようということであろう。彼女の詩句には、世間の様々な因習、しがらみに翻弄された末に26歳という若さで自ら死を選ばざるを得なかった女性の火のような叫びが実に穏やかで優しい言葉で綴られている。

 しかし、引用歌の作者は、そのみすゞが自死せざるを得なかったことに深い違和感を感じている。あれだけ人間の個性を重視し、多様性を叫んだみすゞの個性が生きることをその時代が許さなかったことに作者は激しく怒っている。結句の穏やかな話し言葉は、みすゞ自身の詩に通じるものを感じるが、そこに込められた気持ちは強く、激しい。

     「赤ちゃん」とかつて赤ちゃんだった子が寄って行くなり桃咲く道を

      煙草王生糸王らの洋館に曲線型の窓枠はある

      軍艦に似た雲光る 人を恋うことは私にもう無理ですか