間 ルリ『それから それから』
(2014年、ながらみ書房)
作者は長く英語短歌の分野でも活躍されている印象があったので、第一歌集と聞いて意外でしたが、人生の中を流れる何本もの川のうちの一本が短歌、みたいなスタンスなのかもしれません。気負わない文体の歌集です。
男の子との生活にしばしば言及しています。この歌では行動からすると、少年と青年のあいだくらいの年齢になっています。
ふたつのカタカナ語をさりげなく離して置いた手つきも、〈ジャズの土砂降り〉という語感も無造作に見えてなかなか、粋。
〈青い嵐〉は具体的な曲名、またはブルーノート等の音楽用語を掛けているのか寡聞にしてわからないのですが、青嵐、青春など若さや勢いをあらわす日本語に通じるのはたしかです。
ヘッドフォンで外界の音を遮断している姿を〈あの子〉と指示語で呼ぶことにより、彼の内側に渦巻く熱をすこし離れて見守る視線が浮かびあがります。母と娘よりも母と息子のほうが、この“すこし離れて”感が短歌にあらわれやすいようです。
十一歳鍵を忘れて冬の扉[と]に数時間ほどコナンを読めり
チームワーク怠りし吾に長々と協調性説く十七歳は
たんたんと漫画の『名探偵コナン』を読んで待つなど、息子は幼いころからしっかり者。対する母親のうっかり加減が、ユーモラス。
死んでしまった夫に逢いに行くために夢の中にてストッキングはく
母にはいまだ娘らしいところがあり、そのためにか、子はどこか大人びた態度を身につけている。せつない関係です。