けふもまた「恋は水色」の音にのつてわらびもち売り来たる不可思議

橘 夏生『大阪ジュリエット』

(2016年、青磁社)

 

クリーム色のカバーに緋色の文字と絵が入った美しい歌集で、河野裕子さんの『母系』に似た雰囲気だなあと思ったらいずれも同じ方、濱崎実幸さんの装幀でした。ロマンティックです。

この本、見返しや小口まで赤いため、赤い気分(?)で読んでいたらふいに〈水色〉が出てきて、わらび餅の半透明感も加わり、脳内にそれこそ不可思議な色彩がひろがりました。

ここで不可思議と言っているのは、フランスのポピュラー音楽「恋はみずいろ」(ポール・モーリアの編曲で知られる)と和のおやつのとりあわせが奇妙、くらいの意味でしょう。

この歌を冒頭においた章のタイトルは「生野」。次の歌の詞書「生野の住人の四人に一人は在日のひと」から大阪市生野区のこととわかります。

わらび餅の移動販売って現実にあるんだろうか? と“わらび餅 恋はみずいろ”でウェブ検索したら生野区の事例が音声入りで出てきました。夏の風物詩だそうです。

するとこの歌は、できごとをそのまま書いて最後にひとこと感慨を添えたシンプルな内容ということになります。シンプルだけれど素材のとりあわせで目を引きます。

 

天国ならどこにでもある新世界の串カツ屋の列にふたり並んで

 

やはり大阪ミナミ、通天閣付近の風景。食べものが出てくると大阪らしいと感じるのは先入観かもしれませんが、やはり幸福感に満ちています。天国がどこにでもあるなら、地獄もまた。

〈ふたり〉の思い出がやがて悲しい歌集でもありました。